【顕微授精】【ICSI】顕微授精とは?
卵子に1個の精子を直接注入して受精させる方法です。

体外受精の受精方法の1つで、卵子の細胞質内に1個の精子を直接注入して受精させる方法のことを顕微授精:ICSIといいます。 受精以降は、体外受精と同じように胚を培養して、子宮へ胚を1個移植して妊娠に臨みます。 ICSIでは、まずヒアルロニダーゼ(酵素)を使って、卵丘細胞を取り除き卵子だけにします。 この卵子をホールディングピペットで固定し、形がよく元気で真っ直ぐ速く泳ぐ精子の尻尾を傷つけて不動化し、極細のインジェクションピペットに吸い上げ、 卵子の細胞質へ直接注入して受精させます。 卵子は、透明帯という膜に守られているので、そこにインジェクションピペットを刺して、卵細胞質とともに卵細胞膜を吸い上げてから精子を注入します。これが通常のICSIの方法です。
心配や不安、疑問は持ち帰らない
ICSIには、通常のICSIのほかにピエゾICSI(PIEZO-ICSI)やIMSI(イムジー)があります。
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ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)
最近では、ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)を行う治療施設も増えてきました。
通常のICSIは、先端の尖ったインジェクションピペットを使用しますが、刺し入れた時に先端が卵細胞膜に押し込まれ卵子が変形したような状態になり、 これが卵細胞膜を壊してしまう原因にもなっていました。
しかし、このピエゾICSIでは、先端のとがっていないインジェクションピペットを使って微細な振動(ピエゾパルス)によって細胞膜を破り精子を注入するため、 卵子が変形することなく精子を入れることができます。
顕微授精では、針の刺激に卵子が耐えられなかった場合には変性したり、胚が順調に育たなかったりするケースもありますが、ピエゾICSIは、 従来の方法に比べ卵子へのストレスが少なく、これらが起こりやすい症例には有効だという報告があります。 -
IMSI(イムジー)
MSI(イムジー)は、Intracytoplasmic morphyologically selected sperm injection の略で、 超高倍率の顕微鏡を使って精子を観察して形がよく元気で真っ直ぐ速く泳ぐ精子を選びICSIをする方法です。
通常のICSIでは卵子に注入する精子を400倍に拡大して選びますが、IMSIでは更に拡大して、これまで見えなかった精子の頭部の空胞、尾部や中間部の形を確認することができます。
拡大率は1000倍以上で治療施設によっては6000倍、12000倍にして観察しているところもあります。
精子頭部には遺伝情報が詰まっているので、頭部に空胞がない、または少ない精子を使うことによって受精率や胚盤胞到達率、着床率、生産率が高くなり、 流産率が低下することが期待されるといわれています。 -
スプリットICSI
スプリットICSIとは、1回の採卵手術で採取された卵子をコンベンショナルIVF(C-IVF)と顕微授精(ICSI)の2つのグループに分けて受精を試みる方法です。
精子の状態などからC-IVFかICSIか決めかねることもあります。
たとえば、前回、C-IVFで受精しなかったなどの場合にはICSIの実施を検討しますが、採卵個数もあり、精子の状態も良好であればC-IVFで受精する可能性も十分あります。
そこで卵子を2グループに分け、卵子と精子の力で受精を試みるC-IVFとICSIをすることで受精卵がゼロになることを回避することができます。
ただし、採卵数が多くないと難しいでしょう。 -
レスキューICSI
レシキューICSIとは、C-IVFを行ったが受精が確認できない、また受精が起こらないことを予測して、その卵子にICSIを行い受精を試みる方法です。 これによって、受精できず移植胚が確保できないことを回避することが期待できます。 体外受精では、17~20時間後には2つの極体(第一極体と第二極体)と2つの前核が確認でき、受精が完了したと判断しますが、 この時点で前核が確認できないと受精しなかったということになります。 その時点でICSIを実施することを1day old ICSIといいますが、受精率、胚盤胞到達率、着床率とも良くないため、C-IVFの約6時間後に第二極体が放出されているか、 受精した際に見られる隆起(FERTILIZATION CONE)があるか、またその約1時間後に卵細胞質内の物質の広がり(CYTOPLASMIC FLARE)が現れているかなどを確認して、 受精予測を行い、必要があればICSIを行います。 レスキューICSIは、すべての治療施設で行っているわけではなく賛否もあるため、詳しくは治療施設で聞いてみましょう。
ICSIのポイント
ICSIを行う時には、さらに大切なポイントがあります。
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紡錘体を観察する
ICSIを行ったときに、紡錘体を傷つけてしまうと異常受精を引き起こしてしまいます。
紡錘体とは卵子の核で、中には染色体があり、第一極体の近くにあります。
そのため、ICSIを行う際には、第一極体を6時、または12時の方向に置いてICSIすることで、一般的には紡錘体を傷つけることはありません。
しかし、中には第一極体から離れたところに紡錘体のある卵子もあります。
そこで、卵子の紡錘体がどこにあるのかを正確に見るためのシステムを使ってICSIを行っている治療施設が増えてきました。
顕微授精の適応は?
顕微授精(ICSI)の適応は、主に以下の4つです。
- ①精子の数、運動精子の数が極端に少ない
- ②無精子症で、精巣や精巣上体から精子が回収できた
- ③前回のC-IVFで受精しなかった、または受精障害があった
- ④重度の抗精子抗体がある
顕微授精(ICSI)の治療周期は?
顕微授精(ICSI)の治療周期は、C-IVFの治療周期と同様に排卵誘発方法によって違ってきます。
体外受精の治療周期はこちら
顕微授精の妊娠率は?
体外受精による妊娠率は、日本産科婦人科学会に登録のある体外受精実施施設から寄せられる報告を元に、
治療周期数に対する妊娠率、胚移植周期数に対する妊娠率、治療周期数に対する生産率、妊娠数に対する流産率がそれぞれ毎年発表されています。
この中から、顕微授精による全胚凍結周期、胚移植周期(新鮮胚)、移植周期、出生児のそれぞれ数をピックアップしたグラフを紹介します。
顕微授精の治療周期数は増加傾向にあり、また胚の凍結技術、胚培養の向上などにより凍結融解胚移植周期数が増えています。
そのため、採卵した周期に胚移植するケースは減少傾向で、これは2016年から続き、今後も凍結融解胚移植周期が増加することが見込まれます。
