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国内初!卵巣機能が低下している人へのPRP治療
卵巣機能の低下と妊娠は、時間との戦いです。PRP治療によって、卵巣機能が良くなれば妊娠への可能性が広がります。

まるたARTクリニック
丸田 英 先生
取材協力:株式会社エイオンインターナショナル

i-wish ママになりたい
妊娠しやすいからだづくり 2021に掲載

年齢を問わず卵巣機能が低下すれば、排卵が難しくなり、排卵した卵子の質も心配されます。「もう排卵しない」「卵胞が育たない」となれば、妊娠を諦めざるを得ません。そうしたカップルに対し、これまでも卵巣機能低下を改善する治療は、多くの研究者や医師が挑んできましたが、最近はPRP治療が注目されています。生殖医療でのPRP治療は、子宮環境が良くなる、子宮内膜が厚くなることで知られていますが、機能低下した卵巣へ投与することで改善する可能性があることがわかってきました。
そこで、国内ではじめて卵巣へのPRP治療をスタートしたまるたARTクリニックの丸田 英先生を訪ね、PRP治療の様子から治療後の体外受精治療周期についてお話を伺ってきました。

PRP治療を卵巣へ そのきっかけは?
PRP(多血小板血漿)治療は、体外受精において子宮内膜が厚くならない人、また良好胚を移植しても妊娠が成立しない人を対象に行うことで、子宮内膜が厚くなるなどの効果があり、実際に妊娠例も多く報告されています。このPRPを卵巣へ投与することで、卵巣機能の改善が期待でき、すでに海外では卵巣投与の効果が認められていることから、PRPの卵巣投与を治療プログラムに取り入れようと考えました。
PRP治療は、どこの医療機関でもできるわけではなく、再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき、再生医療等提供計画の届出をし、厚生労働大臣に受理される必要があります。
私たちのクリニックでは、2020年4月に子宮内投与が受理され、2021年6月には卵巣投与が受理されて、PRP治療を行っています。卵巣投与については、国内初の医療機関となります。

卵巣機能の改善のために
卵巣機能の低下は、AMH値が極めて低く、FSH値が非常に高いなどから判断できます。いわゆる閉経になりつつある状態で、女性であれば年齢が高くなるにつれ誰しもに訪れます。また、年齢が高い人だけでなく、若くても卵巣機能低下が起こる人もいます。
しかし、赤ちゃんを授かりたいと願うカップルにとって卵巣機能低下は、非常に深刻な問題です。特に体外受精では、卵子が獲得できなければ治療が進められず、妊娠が望めません。そして、採卵できる卵子の個数が妊娠率に大きく影響しますので、なるべく多くの卵子を確保したいのですが、卵巣機能低下の人は1個の卵子を獲得することすら非常に難しいのです。
そのような場合であっても、目の前にいるカップルに「諦めてください」とは言えません。赤ちゃんを授かりたいと願うのであれば、何かできることはないかと懸命になります。またその治療方法は、赤ちゃんを授かる方法として医学的な根拠のもと、効果が期待できることが重要です。
PRPには、卵胞を良好に育てるための成長因子とサイトカインが多く含まれています。サイトカインは、細胞から分泌される低分子のタンパク質で、細胞にシグナルを送り、細胞の増殖、分化、機能発現など多様な細胞応答を引き起こすことで知られています。これを卵巣に直接注入することで、機能の低下した卵巣の改善が期待できます。

卵巣へのPRP投与を受ける患者さまたちは?
実際に、卵巣のPRP治療を行っている患者さまの年齢層は40代が多く、高年齢の傾向にありますが、年齢が若く早発卵巣不全(早発閉経:POI:Premature Ovarian insufficiency)で治療を受ける人もいます。血液検査では、AMH値が極めて低く、FSH値が非常に高いのですが、エコー検査をすると卵巣が萎縮していて、初見では、どこに卵巣があるのかわからない人もいます。
通常の卵巣は、親指の第一関節ほどの大きさですが、閉経が間近になると、卵巣はだんだん小さくなって、いわゆる硬くなっていってしまうため、エコー検査の際はよく観察して、卵巣を見極める必要があります。一見ではわからないこともあり、エコー検査を行うたび、きちんと卵巣の確認をしていきます。
このような卵巣にPRPを注入していくため、熟練した高い技術を要します。

PRPの卵巣への投与量は?
PRPは、自分の血液から抽出し、採血した日に卵巣へ投与します。自分の血液から抽出した成分ですから、アレルギー反応もなく安心して受けていただくことができます。
また、PRPは採血量20‌cc‌の血液からわずか1ccしかとれませんが、投与量は個々の患者さまによって違います。
AMH値やFSH値を参考にしながら、その人の卵巣の大きさ、硬さ、また卵巣機能が低下してからの期間などから総合的に判断をします。PRPをたくさん注入すればいいわけではなく、その人に合った量を判断することが大切です。

PRP治療の効果を最大限、活用する
PRPの卵巣投与を開始してから、約2カ月半になり、これまで約45症例に行ってきました。
PRPの投与後、すぐに劇的な変化が現れるわけではなく、だんだん良くなっていくという感じです。
そして、PRPの効果を最大限に引き出すために「卵巣に集中する」ことが大切だと考えています。
通常の体外受精のように、排卵誘発をする、採卵する、胚培養する、移植するという治療周期では、PRPの効果は1周期しか望めません。排卵誘発の方法によっては、卵巣を休ませる必要があり、次に採卵をする周期までPRPの効果が持続しているかといったら、それもわかりません。PRP治療を必要とする人は、卵巣機能が低下していて、閉経するかもしれないという状況ですから、時間的な余裕がない、とても厳しい状況です。ですから、1回の排卵誘発ー採卵ではなく、複数回行って、1つでも多くの卵子を獲得することが重要です。
そこでPRPの卵巣投与後は、多くのケースで3カ月間、ランダム法という排卵誘発方法で、排卵誘発ー採卵をだいたい10~15回繰り返し行い、卵子を確保することに専念しています。
3カ月の間に月経が来ることもありますが、採卵したら、また排卵誘発を行い、卵胞を育てて採卵するを繰り返します。なかには毎週、採卵という人もいます。
その3カ月間に、だんだんと卵胞の成長の具合や、発育する卵胞数などに変化が起こります。これまで1個しか採卵できなかった人でも、3個、4個と採卵できる周期もあり、PRPの卵巣投与については、効果があるといえるでしょう。
しかし、卵巣が機能低下をし始めてからの期間が長いとPRPを卵巣に投与しても、難しいケースもあります。

3カ月間、排卵誘発と採卵を繰り返しても大丈夫?
「そんなに長い間、排卵誘発と採卵を繰り返しても大丈夫ですか?」というご質問をよく受けます。
大丈夫ですか?には、大きく2つの意味があって、1つは卵巣が疲れてしまったりしないのか?ということと、もう1つは、ちゃんと卵胞が育って採卵できるのか?という心配を抱かれるようです。
ランダム法は、卵胞の発育のためには薬を使わなくてはなりませんが、一人ひとりに合わせて、薬や量、使い方を調整しています。たとえば、卵胞期の誘発方法と、黄体期の誘発方法では薬の量などに違いがあり、黄体期のほうが、若干、薬の量が多くなります。
強い刺激をかけて、非常にたくさんの卵胞を育てようとしているわけではありません。卵巣機能が低下しているという、もとの状態を鑑みながら、薬の種類や量を決め、より多くの卵子を獲得できるようにしています。
ただ、なかには好調な周期には、複数の卵子が獲得できるのに、低調な周期では1個だけという状態になる人もいます。そうした時には、1週間から10日間、排卵誘発を休むこともありますが、休んだから、次の周期は卵胞が育つのかといえば、それはわかりません。もともと卵巣機能が低下している人なので、そのまま閉経してしまう可能性もないとは言い切れないのです。
なので、好調な周期、低調な周期と波があっても、できれば排卵誘発ー採卵を繰り返して行うことをおススメしています。

卵巣へのPRP治療から排卵誘発へ

PRP治療で、卵子の質は良くなる?
卵子の質については、評価が難しいところです。
1つ指標になるのが胚盤胞到達率です。PRPの卵巣投与後に、3カ月間の排卵誘発-採卵を行っている人のなかには、すでに10~15個の胚盤胞を凍結できている人もいます。
胚の質については、その胚が赤ちゃんになったときに、結果としていい胚だったと最終的に言えるのでしょうが、胚盤胞に到達している個数が増えていることを考えれば、PRPの卵巣投与と、その後の繰り返し排卵誘発-採卵を行うことは効果があると考えていいと思います。
よくランダム法で、卵胞期と黄体期では卵子の質に違いがあるのではないかと心配される人もいますが、多くの論文で卵子の質には差がなく、むしろ黄体期に採卵した卵子の方が質がいい傾向にあるという報告もあります。
ですから、心配せずに治療を受けていただければと思います。

胚移植を後回しに!?不安に思う患者さまはいませんか?
これまで他院で体外受精をしてきた人は「採卵ばっかりして胚移植しないんですか?」と驚かれる人もいます。
これは極端な話ですが、胚移植は閉経してからでもできます。しかし、卵子は閉経してしまっては望めません。
胚移植については、時間的余裕はまだあるけれど、卵子を得ることに時間的な余裕はないのです。
どちらが、今大切か?といえば、それは排卵誘発-採卵をして卵子を獲得すること、それもなるべく多くの卵子を獲得して、移植できる胚を増やすことです。
ですから、PRPの卵巣投与から、3カ月間の排卵誘発-採卵を行った後は、治療をある程度お休みしていただいても構いません。
また、胚が着床するためには、子宮がいい環境であることが大切です。卵子を獲得するには、卵巣が適切に働いてくれることが大切です。
それぞれアプローチが違い、着床に関しては行う検査や治療が必要なケースもあるので、胚移植の際には胚移植に集中して計画を立てて治療することが大切です。たとえば、採卵をして胚移植をした場合、それで妊娠できればいいのですが、万が一、生化学妊娠や流産が起こってしまうと、医学的にも治療を休まなければなりませんし、気持ちがついて行かずに精神的にも治療を休む期間が必要になります。
そのうえ「また採卵から?」となれば、相当な気持ちの切り替えが必要になる人も少なくないですし、第一、卵子が得られる可能性が低くなってしまいます。

体外受精のコストと効果と効率
初診のときに、患者さまに「お子さんは、何人欲しいですか?」と尋ねると、「2人」「3人」と答える人もいれば、「とにかく1人」と答える人もいます。
そうした家族設計からも、体外受精にかかる医療費と結果が見合うようにと、効果的で効率的な治療プロゴラムを計画します。ただ、計画した治療プログラムには高額な医療費が必要になるケースもあります。しかし、結果的にお子さんを授かる道のりを考えた時、治療にかかる期間、コストは、治療方法が見合わず、遠回りをすればするほど長期化し、高額になる傾向にあります。
子どもが授かってからも、子育てにはいろいろとお金もかかりますし、体力も必要です。1歳でも若いうちに、おふたりにお子さんが授かるようにと考え、説明し、計画しています。
最近、キッズルームがリニューアルして、2人目、3人目のお子さんを望むカップルにも安心して通院、診察を受けていただけるようになりました。
卵巣機能が低下していても、PRP治療によって、多くの卵子から胚盤胞が得られれば、2人目、3人目のお子さんを授かる可能性もあります。
ただ、少しでも若いうちに妊娠にチャレンジした方が子どもは授かりやすいです。月経についても、「最近、前より月経周期が短くなってきたみたい」と感じている人は、卵巣機能低下が心配です。なるべく早く専門医に相談をしましょう。
私も、その可能性を引き出し、ひと組でも多くのカップルにお子さんが授かるために、日々、努めてまいります。

プロフィール紹介

まるたARTクリニック 丸田 英 先生

専門医

久留米大学医学部卒業
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医 新生児蘇生法「専門(A)」コース終了
まるたARTクリニック院長