病院・クリニック検索はこちら

サイト内検索はこちら

取材記事

いい卵子に出会うために

公開日: 2017-06-20

みなとみらい夢クリニック 貝嶋弘恒院長のお話
『i-wish ママになりたい 女性のカラダと卵子の話』より


いい卵子に出会うための4つのポイント 

 不妊治療でも、特に体外受精の場合は『卵子の質が大事だ』ということを医師からも培養士からもよく聞きます。
 また、卵子の質は「変えられる」という医師もいれば、「変えられない」という医師もいます。では、変えられないとするのは、どのような理由で、変えられるとすれば、それはどのような観点からなのでしょう。
 この妊娠の要となる卵子の質について、みなとみらい夢クリニックの院長、貝嶋弘恒医師に伺いました。

 

卵子の質が心配になってくるのは35歳くらいから

 卵子の質が要因で妊娠しづらい状態になるのは、年齢でいえば35歳くらいから。だんだんと心配は膨らみ、その心配がいよいよ本格化するのが40歳前後からです。
 不妊治療でも体外受精の場合、体外に卵子を採り出すことから、顕微鏡により卵子や胚を見ることができます。そこから、卵子の質がどうであるかに触れることができます。例えば、十分に成熟した卵子なのかとか、精子と出合わせた時に受精することができたか、あるいはその後に順調に受精卵(胚)が分割したか? などです。
 それでも「質のいい卵子とは何ですか?」と尋ねられたら、その究極的な答えは「赤ちゃんになることができた卵子です」という、結果論になってしまうでしょう。それほど、卵子の質についてはわからないことが多いのです。
 ただ、多くのケースでは35歳くらいまである程度卵子の質が保たれています。それが生殖適齢期です。ある意味その期間であれば、どのような卵胞期を送っても、治療周期でどのような排卵誘発を行っても、妊娠に結びつく卵子に出会うことはできるでしょう。しかし、問題なのはその後、だんだんと年齢を重ねるとともに卵子の劣化が起こってきてからです。
 そうなると、治療でも必要とされる方法や方向性が決まってきてしまいますし、妊娠に挑戦する周期以前からの準備にも注意が必要となってきます。

 

私の考える治療・その4つのポイント

 そこで、私が治療で考えているポイントを例に、お話しましょう。
 35歳以上、とくに40歳前後からは、卵子の質に関して、次の4つをあげています。
❶ いい条件で周期をスタートさせること
❷ 遺伝子レベルの質は変えようがないこと
❸ いい卵子に出会うまで続けること
❹ 漢方や東洋医学、ストレスからの解放などを取り入れて全身状態をよくすること
 それらは、1つ1つが独立してあるというわけではなく、どれもが関係し、また絡み合ってくるものです。
 これらのことから、質のいい卵子が得られるように導くための方法や考え方となると、医療として努力する部分と、患者さんが理解をして努力する部分も必要になってくるのです。
 次に、それぞれをみていきましょう。

 

❶いい条件で周期をスタートしましょう

 よい条件で採卵する月経周期をスタートさせること。これは、とても大切なことです。卵胞は、排卵周期の60日前くらいからFSHに対して反応するようになります。つまり月経の周期的なホルモンに対して反応するようになるのは、排卵する前の周期も関係しているということになります。そのため、採卵する2周期前から、採卵に向けての準備がスタートします。
 いい周期でスタートさせるために重要になってくるのがFSH値とLHの値です。まず、FSH値からお話します。FSH値からは卵巣機能の状態を知ることができます。この値が高ければカウフマン療法やピル、または他のホルモン剤などで下げる必要がありますし、その方法が期待できないほど卵巣機能が低下し、FSHが高い状態であれば、少しでもいい状態の月経周期を逃さないようにすることが必要です。FSHが高いからと言って卵の質の低下に直結するわけではありませんが、FSHが高いことによって月経周期と排卵周期にズレが生じやすくなるため、治療に適切な周期かどうか注意深く診ることはとても大切な事です。
 また、FSHとともに重要なLH値ですが、この基礎値が高い周期は、その周期中に育つ卵胞と中にある卵子の劣化が起こりやすくなります。つまり、質のいい卵子の獲得が難しくなるわけです。そのため、FSH値とともに、LH値も同様に診て、高ければその値を下げる工夫が必要です。FSH値もLH値も低い周期であること。これがいい条件でスタートさせることにつながります。そのためFSHが下がりきらない、LHが高いままの場合、その治療周期を見送り、次周期までに再調整をすることもあります。

 

❷遺伝子レベルの質は、変えようがない

 卵子の質は、年齢とともに低下します。それを止めることはできませんし、変えることもできません。これには、染色体異常が起こりやすくなってくることが大きく関係しています。卵子は、染色体の数を半分に減らしながら成長してきます。46本だった染色体の数を半分の23本に減らし、精子と一緒になること(受精)で46本になります。この染色体の数を半分に減らす行程で間違いが生じて、卵子の核に過不足が出る頻度が年齢を重ねるごとに多くなってきます。
 例えば、核置換や細胞質置換などによって卵子を若返らせるという方法も考えられるでしょう。しかし、もともとの核に異常があれば、いくら核や細胞質置換を行っても、その卵子のほとんどは赤ちゃんに結びつくことができないでしょう。また、倫理的な問題も生じてきますから、やるべきことではないと私は考えています。
 遺伝子レベルでの質は変えようがありません。それは、誰も避けることができないということをみなさんが十分に理解する必要があります。適齢期と言われる30代前半までに妊娠、出産するのが理想ですが、現実的には40歳以上の方もたくさんいらっしゃいます。そのために何が考えられるか、そこがとても重要なのです。

 

❸いい卵子に出会うまで

 卵子の質と妊娠を考えた場合、いい卵子に出会うまで継続するのが一番の近道かもしれません。遺伝子レベルの問題がクリアされたとしても、その卵子が質のいい卵子であるとは言えません。
 質のいい卵子に出会うためには卵巣に無理をさせないように、1周期も無駄にすることなく、その周期に最善を尽くすことです。それが私たちの仕事です。
 ロング法やショート法などで卵巣を刺激した場合、その周期に採卵できた卵子で妊娠が叶わなければ、また採卵が必要となります。
 しかし、40歳前後と年齢が上がってくると卵巣機能は低下し、卵巣を強く刺激しても多くの卵子を確保するのは難しくなってきます。再度、採卵が必要になったとしても、すぐに卵巣を刺激することはできません。また、FSHはコントロールしにくくなりますし、強く刺激した卵巣を元に戻すために3周期ほど休ませなくてはなりません。さらに完全には戻らず、機能低下を早めてしまうこともあるでしょう。もしもその間に、赤ちゃんに結びつく卵子に出会える周期を迎えていたら…、どうでしょう?
 妊娠し、出産できたかもしれないのです。
 そこで卵巣に負担をかけず、その周期の卵子を逃さないということが、とても大切になってきます。
 また、採卵した卵子を見ると、年齢が高くなるにつれて卵の形態異常も増えてきます。 
 例えば、『卵子の透明帯だけはあるけど中身がない』『細胞質の状態もよくない変性卵』『顆粒膜細胞はあるけれど中は空洞』という状態などもでてきます。
 特にAMHが極端に低い方に多く見受けられますが、このような状態が必ずしもずっと続くわけではありません。何周期か続き、突然、フッといい卵子に出会うことがあります。その周期を逃さないようにするためには、とにかく続けることです。継続は力なりということなのです。

 

❹データではない効果のあること

 質のいい卵子になかなか出会えない場合、東洋医学やシュタイナー医学などを取り入れ、ホリスティック(全体のバランス)を考えての治療が功を奏することもあります。
 いわゆる西洋医学は、病気やケガの元になっている箇所について治療をしますが、東洋医学は、その人自身を見て全体的なバランスを整えることで治療が進められます。
 当院の漢方外来での診療後に卵子の質がよくなったと感じることがあります。それは、受精後の胚の成長がよくなった、また妊娠に結びつく、出産にたどり着くなどの結果からわかることもあります。
 ただ、これをデータ化することがなかなかできないのです。そこには個人差も大きいことと、どれだけやって、どういう数値になったということがデータで捉えることが難しいからです。
 西洋医学においては、投薬をすれば、その量によってどれくらいホルモン値が上がった、下がったというデータがとれますが、東洋医学などは、それがとても難しいのです。そのためエビデンス(科学的な根拠)で証明することはできないのですが、結果から、その効果が示唆できるわけです。
 以上、私が考える4つのポイントをお伝えしました。

 

みなとみらい夢クリニック 貝嶋弘恒院長のお話
(2015年3月5日発行 『i-wish ママになりたい 女性のカラダと卵子の話』の記事です )