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体外受精での移植胚取り違え事故に関して 2009.02.23

 

事故の内容は>>>

 事故の内容は、皆様ご承知の通り、担当医(川田清弥医師)が、培養室での作業中、同時に2例の移植胚の入ったシャーレを並べて作業を行なったため、どちらかが分別つかなくなってしまい、間違って、体外受精患者夫婦に別の患者夫婦の受精卵を移植してしまった可能性があるとして、移植後、妊娠した女性にそのことを告げて、結果、中絶にいたり、患者が県を相手に2000万円の損害賠償を起こした事件です。
 事故が明るみとなり、病院関係者が謝罪会見を開いていることから、マスコミも大きく取り上げ、世間でも問題話題となっているものです。
 また、経過や事故内容に関しては、戻した胚が2回に渡っていること(1回目に2個、2日後に1個、この1個が別の夫婦の卵らしい)での治療上の問題や、病院が県立であることから責任対象となった県での対応にも問題が指摘されています。

 

では、アンケート実施当時の同病院・川田医師からの回答は…>>>

 香川県立中央病院・同医師からのアンケート回答も、(全国160件中68件目に)届いています。同医師のキャリアや培養士人数、実施数や施設環境面からも、その回答からは、とくに緊迫した問題をかかえていたなど想像もしていませんでした。
 今にして思えば、川田医師からの正直な回答は、ある意味、今回の事故につながる要素を抱えていたようにも思います。本来、アンケートの個々の回答を(掲載原稿化する時の了解の無いままに)当センターが公開することはありませんが、今回の事故の持つ社会的意味の重要性からも、選択的に関係する回答を紹介します。

 2007年度例(2007年1月〜2007年12月)で、県立中央病院のART患者実数は、IVF(体外受精)が71件、ICSI(顕微授精)が20件の計91件(名)です。治療周期数110件、採卵件数98件、採卵数292個、うち妊娠に至った患者数は21名で、出産に至ったのは15名、出産児数は21名です。したがって双胎の症例は21妊娠中の6名で28%となっています。
 その実績を遂行しているスタッフは、川田清弥担当医師はじめ、培養士4名(最長キャリア8年、最短1年)ほか看護師。培養士は、検卵できるスタッフが4名、媒精ができるスタッフ4名、ICSIができるスタッフが1名で、全員培養液交換ができ、凍結融解できるスタッフは3名。同、川田医師は一連の培養作業ができる医師として従事しています。

 ※このことからは、最近のART環境では、培養室作業は培養スタッフが受け持つことが多いのに、同医師が一人で作業を行なうことが多かったとの会見が気になります。
 移植胚に関しては、初期胚の場合と胚盤胞の場合をチェック方式で、1個、2個、年齢に応じて、治療歴に応じて、夫婦の希望、の5項目で聞いています。

 回答では、初期胚の場合、1個、2個、年齢に応じて、治療歴に応じて、夫婦の希望、の全てが選択され、胚盤胞の場合は、1個のみが選択されていました。

 ※初期胚の場合のチェック項目の多さから、移植胚の複数化が見て取れ、それは同時に双胎率28%の数字につながっているのでしょう。学会で1個胚戻しを奨励していますが、患者個々に症状は違うため、現場では必ず1個!と決めつける規定ではないようですが、28%の多胎率は改善の取組み対象でしょう。

 ・・これら紹介で、同病院における体外受精の様子が少し見えて来たことと思います。

 

では、管理面はどうだったのか?>>>

 肝心の管理面での回答は、『取り違いがないよう記名明記、確認を徹底している』『管理状況を毎日ノートに記入チェックしている』『人為的なミスが生じた時には迅速な対応ができるようマニュアル化している』の項目にチェックがありました。
 培養室で今までに起きたミスの実例としては、『胚の不明』との自筆記入があり、『培養室でのミスは医師や院長にも把握できるシステムである』ことにチェックが入っていました。
 そして、回答では、培養室の管理責任者は病院院長としてありました。

 ※胚の不明に関しては、今回の事故のことを指しているのか、または別件を指しているのかは不明。胚の不明や胚の紛失に関しては、少なからず他の施設からも回答があったことから、培養室でのミスは、人の命の発生に関する仕事であること、また、子どもを望む夫婦の大切な遺伝子を扱うことからも、あってはならないミスではあるが、生じてしまう環境にあることと解釈し、その内容の重要度を問題視しなければならないと、同センターとしては考えています。
 ところが、その中でも最も起きてはならないことが、今回起きてしまっています。この事実から、私たちは更なる注意を業界に呼びかける必要性を感じてなりません。同時に『では、今までには起きていないか?』と懸念されます。
●現在、今後の事故の再発を防ぐためにも事故の詳細を連絡いただけるよう、電話およびメールで川田医師に打診していることを皆様にお伝えいたします。

 

今回のことからの反省>>>

 私たちの行なったアンケートと同じころに起きている今回の事故。アンケートは、あくまでも自己申告制の回答のため、正直な回答であることを前提としての話となりますが、それでも回答中に『胚の紛失』などのミス発生が少なからずあった。これはつまり、採卵時の作業や検卵時の作業、シャーレ上での顕微鏡を見ながらの作業や胚移植まで関係することです。
 卵の紛失が起きれば、胚移植を待つ患者に損害が及びます。作業が一般には見えないため、きちんと行なわれているかは従事するスタッフの資質にも大きく関係してきます。その資質までを普通の状態で判断することなど、業界にとっても患者にとっても、とてもできることではありません。
 しかし、現在の高度生殖補助医療は、どこで受けても安心なことのように進んでいる面もあれば、一方で、夫婦以外の卵子や精子、受精卵使用や代理母まで含めた不妊治療が実際には行なわれているのです。
 倫理やルールが伴われなければ、確実に問題は起きるでしょうし、芽生えた命そのものへの軽視も起きかねません。県立ともあろう病院で、ARTで卵の取り違えが起きている現実もさることながら、確実に育ちはじめた命を、血筋のできる限りの検証も無いままに世の中から消し去っている事態を、人はもっと厳しく見つめるべきではないかと、心痛めてなりません。
 皆様はいかがお思いでしょうか?

 

私たちの方針>>>

 私たちの媒体では、全国の不妊治療施設や産婦人科の病院情報を扱っていますが、今回の事故が起きた香川県立中央病院の紹介もあります。また、アンケートの結果からも、同病院の内容が飛び抜けてひどいというわけでもありませんでした。ということは、他院の内容や、過去にさかのぼって掲載してきた私たちの情報に正確さを欠く病院情報があるかもしれません。できるだけいい情報を心がけているのですが、やはり事故や管理面、スタッフの資質に関わる話となると、正直、察しもつきませんし、危険信号となる情報は結果的に何かが起こって見えてくるのが現状です。その中での最善の参考として媒体をみていただくしかありませんが、昨年から私たちが掲げていることも、実はARTの品質にこだわったテーマで今後のために少しでも有効な情報づくりを備えていくことでした。
 『ルール無くしてARTは無い! 』と言えるほどのルールがARTにあればまだ救われるかもしれないのですが、日本の生殖医療の標準化を掲げ、優秀なクリニックの集まりである組織加入の有名クリニックでさえ、胚移植前日にシャーレをこぼして、移植待ちをしていた患者さんが辛くて仕方ないという相談が当センターに寄せられたこともあります。残念なことに、そのクリニックからの今回のアンケート回答には、そうしたミスが起きている報告はありませんでした。
 そのようなことからも、業界全体が真摯に厳しい目を持つことがさらに大切でしょうし、私たちの情報も、まだまだ完全ではないこともお詫び申し上げておかねばなりません。情報を扱う立場とはいえ、掲載病院でこのような事故が起きたことを深く考えれば、無責任ではいられません。

 それでも、私たちの媒体取組みがここ数年、大きな意味を持って来たこと、そして今後も持ち続けていくと自負しております。
 業界全体として

 こうした事故が再度起きないよう注意を払うことはあたりまえの事。
 過去に起きてはいないかを疑ってかかるのも仕方ないこと。
 つねに、子どもを願って不妊治療に臨む夫婦の気持は尊いもの、そこで産まれる命も尊いもの。

 手助けするスタッフの力も医療も尊いもの。それら尊さは、正当に発展して欲しいものです。
 最後の最後に、失われた命にも合掌したい気持を忘れてはならないと、人間である自分自身に言い聞かせたいと思うのでした。

                  

 チーフ/谷高哲也 記

 

●10項目、60以上の内容からなるものです。

 

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