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取材記事

ママになるからだ

公開日: 2017-07-18

 

 神奈川県鎌倉市、大船駅からほど近く、活気にあふれた商店街を抜けたビルの4階に矢内原ウィメンズクリニックはあります。一般不妊治療をはじめ、高度生殖補助医療を専門に扱うクリニックながら、食事指導や運動指導にも力を入れているのが特徴。
 また、姉妹病院の矢内原医院は分娩メインの産科施設であることから、不妊治療から分娩までトータルした医療を受けることができます。そして、それぞれの施設が独立しているので、どちらに通院する患者さんも気兼ねなく、専門的な医療が受けられるというのも魅力的です。
 そこで、不妊治療から妊娠、出産までのトータルした「妊娠しやすいからだ、ママになるからだ」についてお聞きしようと、黄木詩麗先生を尋ねました。

 

ママになるためのからだづくり
そのためなら全力で鬼になります

 「私、笑顔で厳しいことを言うので、患者さんたちには『鬼だ』『怖い』と思われているかもしれません。でも、『からだづくり』は、とても大切なことなのです。
 私たちは、妊娠をどうにかできるわけではありません。体外受精でさえ、生殖補助医療と言い、「補助」という言葉がつきます。
 その補助となる治療でできることは、患者さんのからだをノックすること。ですから、患者さんのからだが、そのノックにきちんと反応できるか、どうかが大切になってきます。その基本となるのが「からだづくり」。私たちクリニックでは、食事指導や運動指導などを行っていますが、それは妊娠することだけが目的ではありません。妊娠しやすいからだづくりは、妊娠後の生活、つまり、胎児が順調に育つこと、無事に生まれること、そして、赤ちゃんが育つことにつながります。患者さんたちには、大事なことだからわかってほしい。だから、私、全力で鬼になります!」
 と笑顔で語る黄木先生。黄木先生の横では
 「それは、愛のムチ。だから私たち看護師も、先生と一緒になってフォローアップしています」
 と話す看護主任の渡邉さんと木村さん。
 では、その「からだづくり」の話をご紹介していきましょう。

 

妊娠しやすいからだづくりへの取り組みとして、
どういったプログラムがありますか?

 私たちは、妊娠しやすいからだづくりを、とても重要なものだと位置付けています。 
 そこで、外来として、「ダンスエクササイズコース」と、「おうち筋トレ&食事指導コース」の2つを設けています。「ダンスエクササイズコース」は、毎週火曜日の15時半から1時間、10人ほどのグループを対象に行っています。お仕事を持っている方は参加が難しいので、そういった方には「おうち筋トレ&食事指導コース」をお勧めしています。診察中での視診、体格(肥満や痩せ)、肌の色やツヤなど、全体的な様子からの判断や、なかなか治療結果が出ない方などを対象に個別指導をしています。医学的な数値やデータのある部分ではありませんが、からだの状態をよくすることも大切と考えています。

 

妊娠しやすいからだづくりは、なぜ必要ですか?

 患者さんに「何を摂ったら、妊娠できますか?」と聞かれることがありますが、「そんなものはない。バランスよく食べることが大切なんだよ」と話しています。患者さんは、「面白くない話を聞いた」という顔をすることもありますが、食べる物のバランスの良さと、からだに良くないものは摂らないことが食生活の基本です。
 バランスの良さの中には、エネルギーの供給と、消費の関係もあります。ですから、日々の運動も大事なこと。そういった日常生活の改善は、身近で取り組みやすいと考える分、また見落としがちになり、そこをきちんとやろうとすると、意外と面倒臭く思う方もいるでしょう。でも、そこをあえて!
 なぜなら、からだに入ってくる栄養のバランスが良く、それを受け入れるからだの代謝が高い方が、妊娠に向けて力のあるからだと考えているからです。

 

おうち筋トレ&食事指導コースは、どのようなものですか?

 患者さん個々に食事記録を取ってもらい、その方に適した筋トレ指導をし、家で実践してもらうようにしています。食事記録は、朝、昼、夕の食事内容と時間、それから間食とその時間、そして寝た時間も書いてもらい、チェックをしています。筋トレは、個々の体力や能力(身体の柔らかさなど)に合わせて外来で指導し、家で実践してもらっています。筋トレは、夜の入浴前に行って、その後に汗を流してもらうのが気持ちがいいかなと思います。

 

患者さんたちは食事記録を、どのように書いてきていますか?バランスはいいですか?

 食事内容は、みなさんいろいろです。朝は、カフェオレとパンだけ。昼は、おむすびというように、指導スタート時は、あまりバランスの良くない方もいます。また、仕事の都合や、ご主人の帰宅時間に合わせて夕食を摂るため時間が遅い方もいます。そういう方には、夕方に野菜たっぷりサンドウィッチなどバランスのいいものを食べて、夕食をスープなどで軽く済ませること。また、ご主人の帰ってくる前に夕食は済ませて、ご主人と一緒に食べる時には、ところ天などにするような工夫をお勧めしています。

 

食事記録をとるメリットは、どこにありますか?

 食事記録から、多い栄養素、足りない栄養素などを外来でチェック、指導をして、日々の食生活の改善に役立てます。食事記録を取ることで、「この食事内容は、良くないな」「ちょっと食べ過ぎだな」「これでは、足りないな」など、自分自身で気がつくことができるようになるでしょう。また、その食事内容から運動の必要性も感じるようになると思います。日頃の食事は、糖質(炭水化物を含め)や脂質(揚げ物など)の多い食事になりがちです。必要な栄養素ではありますが、もちろん摂り過ぎはよくありません。
 書いて、記録に残すことは、自分の気づきと改善につながっていくことも、メリットの1つだと思います。そして、栄養をキープできるからだ、いらないものを排出できる代謝のいいからだを目指しましょう。
 そうして指導していると、だんだん厳しくなってしまうのです。もちろん、無理はさせませんが、大事なことだから、どうしても理解してほしいので、鬼のようにきびしくなってしまうのです…。

 

おうち筋トレ&食事指導コースなどの外来を受診されていない方へのフォローは?

 エクササイズや、おうち筋トレなどの外来までは…という方も中にはいますので、そういった方たちには看護師がフォローしています。
 通院されるみなさんの気づきのきっかけになるようにと、からだにいい食べ物やレシピ、家でできる簡単エクササイズなどを待合室の壁に掲示して、診察を待つ間に読んでもらえるようにしています。中にはスマホで写真を撮って帰られる方もいますし、紹介したレシピを実際に作ってみましたと言ってくださる方もいます。また、検査や、注射などの処置の間に「どうですか?」と声をかけたり、相談を受けたりすることもあります。
少しずつでも、自分の生活の中に取り入れていけるようにと、声かけをしています。

 

男性の食生活も、精子へ影響しますか?

 「栄養面、運動面の不足が精子に影響しますか? 」と、ときどき聞かれます。
 以前、糖質や脂質の摂取量が精液所見に影響するという報告がありましたが、そうでなくても精液所見は、4~5倍ほどの変動があります。栄養に気を配ったから、運動をしたから精子の数が増える、元気に運動する精子が増えるというのは、エビデンス的には考えにくいと思います。ただ、健康であることは大切なことですので、ご主人も栄養と運動に心がけましょう。

 

特に、気をつけてほしいというタイプの方はいますか?

 妊娠前の体重が周産期の合併症に大きく関わってきます。これは、特に太っている方に言えることですが、妊娠前の状態が、妊娠経過、出産に影響しますので、不妊治療中にはイメージしにくいかもしれませんが、そこは鬼になって指導します。
 矢内原ウィメンズクリニックで治療して妊娠された方の多くが、分娩施設として姉妹クリニックの矢内原医院を選んでくれています。
 赤ちゃんが生まれると、こちらにも出産の報告が入るので、時間が許すときには、赤ちゃんを見に行くことがあり、嬉しく思っています。
 ただ、分娩時の報告を聞くと、時間がかかった、大変だったということがあり、その中には「やっぱり…」と思うケースもあります。運動が足りなくて出産に時間がかかったのかな? 妊娠中、大事にし過ぎて、あまり動かなかったのかな? と、不妊治療中の様子から、その後の状態が心配になるケースです。不妊治療から、妊娠生活、出産へとつながっていくものですから、やはり母体が健康であること、その後の生活にも自分自身で気がつけるようになることが大切です。ですから、治療時から、その先、その先を見越して指導することが大切だと考えています。
 先にも言いましたが、妊娠前の体重が妊娠合併症のリスクを上げてしまうため、特に太り過ぎは解消しておきたいことの1つです。もちろん、痩せ過ぎもよくありません。妊娠してから、痩せたり、太ったりすることもよくありませんから、妊娠前から準備をしましょう。

 

 

矢内原ウィメンズクリニック 黄木詩麗先生のお話
(2015年9月20日発行『i-wish ママになりたい 妊娠しやすいからだづくり2015』の記事です)