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取材記事

しっかり原因を診ていくこと

公開日: 2017-07-15

基本的に知っておいて欲しいこと

 ART治療で妊娠しなかった患者さんに対して、「今回妊娠しなかった原因は卵子の質が悪かったからです」と言い切ることはなかなか難しいものです。卵子はご存じのように生まれる前の胎児期に完成しており、その後は数が減少していきます。卵子は新しく作られることはないのです。35歳の方の卵子は誕生してから35年以上、40歳の方の卵子は40年以上経過していますから、卵子の質は加齢に伴い低下することは明らかなのです。
 しかし、ARTにおいて卵子の質は、胚移植時の胚の形態グレードを見て、良いか悪いかを判断しているにすぎません。形態的にいくら良い胚でも妊娠されないこともあるし、逆に形態的に良くない胚を戻しても妊娠されることもあります。

 

患者さんはそれぞれ

 来院される患者さんは年齢が20代前半から40代後半まで、不妊期間も数カ月から5年以上の方、他院での不妊治療歴のない方から数カ所で治療を受けてきた方まで様々な方がいらっしゃいます。
 また治療方針に関しても、何が何でも不妊原因を知りたい方、できるだけ自然での妊娠を希望する方、すぐにでもARTを行いたい方、不妊知識の全くない方からインターネットなどで知識が豊富な方など様々な患者さんがいらっしゃいます。従って、画一的な治療を行うことはできず、初診時にじっくり時間を取り、患者さんの希望を聞き、治療方針を個々に立てていくことが重要になります。そのため当院では初診時の診察前の問診で看護師や不妊カウンセラーがしっかり時間を取り、患者さんの希望を汲み取っています。

 

注意したいこと

 「卵子の質を改善することはできますか?」と聞かれれば、「それは不可能です」とお答えします。
 〝卵子の質≒女性の年齢〟なので、時計の針を巻き戻すことは不可能だからです。ただ、卵子の質がこれ以上悪くならないようにすることは可能でしょう、とお話します。そのためには生活習慣をきちんとしましょう。特に以下の3点に注意してください。
①適度の運動と妊娠しやすい食生活を:毎日30~60分の運動をしましょう。食生活については「妊娠しやすい食生活:日経新聞社、千八百円」にわかりやすく書いてありますので、是非参考にしていただきたいです。
②禁煙:妊娠を目指す方は禁煙が絶対条件です。初診時に1割弱の方に喫煙習慣があるようです。
③肥満に注意:初診時にBMI値が25~30の方は要注意です。25以下になるよう、ダイエットをしながら不妊治療を行い、30以上の方はまず専門外来などを受診し、体重を落としてからの治療開始をお勧めしています。10人に呼び掛けると、再来院時5人は努力中で減量継続中、3人は適正体重となり、2人はドロップアウトといった状況でしょうか。

 

実際の治療は

 30代前半までの若い患者さんは、時間的な治療の余裕が比較的にあり、治療の選択肢も多いですが、30代後半~40代の患者さんになりますと卵子が減少しており、質も低下していますから、時間的余裕がなく、治療の選択肢も限られてきます。従って不妊治療を開始される患者さんは自分の今の状態・状況をしっかり把握してから、効率よく、短時間で治療に取り組んでいただきたいと思います。
 まず残存卵子数を推測するためにAMH値を測定し、若い方も含めて低い方は、より短期間のうちに妊娠を目指して治療を行っていただきたいです。またタイミングを1年以上行っている方や、排卵誘発剤を5周期上使用している方、人工授精を5回以上行っているのに妊娠されない方、不妊期間が長い方は早めにARTを検討された方がよいでしょう。
 当院では原則全胚凍結を行っています。これは採卵周期に新鮮胚移植を行うのではなく、胚盤胞まで発育した胚を凍結し、2~3周期後に凍結胚を移植するものです。AMHが低い方や40歳以上の方などには、凍結胚ができたらその都度胚移植をするのではなく、胚盤胞を数個凍結できるまで採卵を繰り返してから凍結胚移植を行うこともあります。複数胚を凍結しておくことにより、1人目のお子さんを出産後、残った凍結胚を移植することで2人目のお子さんを得る方も増えてきました。
 患者さんの中には、なかなか妊娠しない、夫婦の関係がぎくしゃくしている、などのストレス要因を抱えている方が多くいらっしゃって、通常の診療の中ではなかなか相談として言い出せない方もいらっしゃいます。そのような方には不妊カウンセラー・不妊症看護認定看護師が、個別に臨機応変に相談・カウンセリングを行っています。

 

 

西垣ARTクリニック 西垣新院長のお話
(2015年3月5日発行 『i-wish ママになりたい 女性のカラダと卵子の話』の記事です )