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取材記事

説明と理解、そして決定

公開日: 2017-07-02

子どもが授かるようにその虹の架け橋になれるようベストを尽くす

 東京都杉並区にある虹クリニックは、荻窪駅の近くにあります。本院である荻窪病院から不妊に関わる診療を独立させ、虹クリニックとして2008年に開院しました。
 荻窪病院といえば、日本で4番目の体外受精児出産例のある、生殖医療では老舗の病院。今は、不妊治療の部門を虹クリニックで行い、本院の荻窪病院とも連携をしながら診療をしています。
 虹クリニックという名前は、院長の北村先生と本院前院長、スタッフで考えたのだそうです。子どもを願うご夫婦の虹の架け橋になりたいとの思いからの採用でした。
 私たちが取材で伺ったのは7月初旬。虹クリニックの待合室には、七夕飾りがありました。訪れた方の願いが込められた短冊がたくさん飾られている中に、先生の短冊もありました。「皆様の生活が豊かになりますように」と…。
 七夕飾りに心を和ませて、北村先生への取材が始まりました。

 

虹クリニックの特徴

 子どもさんを希望して、ここに来られるご夫婦は、「妊娠しづらいご夫婦」だと考えています。それに対し、不妊症という言葉はインパクトが大きく、どこか「尖っている」ように聞こえるため、あまり使っていません。
 お見えになるご夫婦は、妊娠しづらい状態なわけですから、なにが問題になっているのか、障害になっているのかをきちんと診ていく必要があります。
 ホルモン環境はどうか? 卵巣の状態はどうか? 何歳だろうか? など、ご夫婦の状況をよく診て、なるべく自然妊娠に近い方法から治療を始めていきます。

 

治療はなるべく自然に近い方法から個人個人に合ったものを

 一通りの検査をして、可能であればタイミング指導や人工授精など、なるべく自然に近い方法から治療を始めます。ただ、目安となる期間がありますので、その間に妊娠が成立しないようであれば、治療をステップアップしていきます。
 ただ、そこですぐに体外受精か? というとそうではなく、それも1つの方法ですが、さらに検査を進め、問題となるような子宮筋腫や子宮内膜症などがあれば、それを解消して改善できる腹腔鏡手術などをお勧めすることもあります。
 私は内視鏡専門医でもありますから、こうしたいくつかの方法を提示しながら、その中で最も適していると考えられるものをお勧めします。そして、患者さんと相談しながら、最終的には患者さんご夫婦が決めた方法で治療を進めていくようにしています。
 体外受精治療周期では、その方の年齢、卵巣機能、卵巣予備能などを調べて、その方に合わせた排卵誘発方法を決めています。刺激周期が適している方もいますし、低刺激などのマイルドな方法が適している方もいます。個人個人によって違いがありますので、よく見極めていくことが大切です。
 特に、私たちクリニックでは、患者さんの年齢制限を設けていないので、40代半ばを過ぎている方もいらっしゃいます。時間的にも、あまり余裕がないケースもありますので、その見極めはとても重要になってきます。

 

年齢が高い方には、きちんと説明して治療に臨むことが大切

 年齢制限を設けてはいませんが、年齢が高い方には治療を始める時に現実的な厳しさも話さなくてはなりません。女性の年齢が44歳、45歳と上がってくるにつれ、妊娠も出産も難しくなります。
 50歳前後で通われている方の中には、卵子を採ることができる人もいますが、妊娠するのは難しく、さらに出産となると、なかなか結びつきません。40歳半ば以降で出産までこぎつけるケースはごく少数です。
 治療して、子どもを授かることは大変厳しい現実だということを、まず最初にお話をして、「それでも治療をしますか?」と投げかけています。そうして、厳しいことも理解して、納得していただいてから治療をスタートすることが、年齢の高い女性には大切なことだと考えています。

男性不妊は、本院の荻窪病院と連携も

 また、男性不妊にも力を入れています。本院の荻窪病院には、泌尿器科医で日本生殖医学会の生殖医療専門医でもある大橋正和医師が男性不妊の診療をしています(生殖医療専門医は全国に561名。ほとんどが産婦人科医で、泌尿器科医は全国に47名。2015年4月現在)。
 男性不妊でも、軽度の乏精子症(射精精液中の精子が少ない症状)などは、当クリニックで診察しますが、重度の乏精子症や、無精子症(射精精液中に精子が1個もいない症状)の場合には、大橋先生へ診察を依頼します。例えば、無精子症の場合に精巣から精子を回収する手術、MDーTESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)は本院で行い、回収できた精子を当院で顕微授精(ICSI)するという連携をとっています。

 

男性にとって妊娠が近づくからだづくりは?

 男性に不妊原因がある場合に、「なにか、自分たちでもできることはないですか?」と質問される患者さんもいます。でも、どなたにも効果的な方法というものは、特にありません。精液所見の状態によっても、お伝えすることが変わってきます。
 一般的によく言われるのは、『精巣を冷やしましょう』とか、『亜鉛の多いものを食べましょう』といったことですが、これらについても「中には効果のある人が時々いるよ」と伝えています。
 やはり、何かしたら劇的に効果が上がるという方法はないと考えているからです。ただしこれは、シビアなケースにはお伝えはしていません。例えば、重度の乏精子症や無精子症の場合、根本的な原因を解決できない限り、一般的に言われるものは効果はないということです。
 ただ、どのようなケースであっても、タバコと過度のアルコールはよくありません。  
 これは、女性も同じことですね。

 

では、女性にとって妊娠しやすいからだづくりは?

 もちろん、女性の患者さんからも「何か、ありませんか?」と聞かれることもあります。これも、科学的な根拠のあるものというのは少なく、生活習慣の中で何か…と言っても、基本的な健康を管理するのと変わりはない部分もあります。
 ですが、子宮筋腫や、子宮内膜症、子宮内膜ポリープなどは、これが妊娠を難しくしている要因にもなります。そこで、本院と連携して積極的に手術を勧めることがあります。それが、妊娠しやすくするために必要なことでもあるからです。
 また、ストレスの少ない環境で治療を受けることも大切な要素だと思っています。

 

ストレス解消のお手伝い

 今は、ストレス社会。そのストレスが良くないともいいますが、これをどうにかしようとしても、なかなか難しいものです。
 当院では通院している方も、そうでない方も参加できる、患者さん向けの「虹サロン」を約半年に1回、開催して、ストレス解消のお手伝いをしています。サロンでは、妊娠に良いとされる体操をしたり、試食したり、また参加される方同士が情報交換したりと楽しんでいただける時間にしています。看護師や胚培養士、事務スタッフなどが、毎回、いろいろと考えてサロンを開催しています。私も、参加するのですが、ときどきとんでもない格好になることもあります(噂によると、着ぐるみを着て、サンタさんとか○○になったり…!?)。
 初めて来られる方に、普段から、おかしな先生なのかしら? と思われたら困りますが、打ち解けてもらえればいいなと思っています。
 そして、参加された方が楽しんで、また自分だけが悩んでいるのではないということがわかり、ストレスが少しでも軽くなってお帰りいただければ、もっといいなと考えています。抱えているストレスは、みなさん、それぞれ違います。仕事のことだったり、家庭のことだったり、また治療のことと、どこにそのウエイトが高いかはわかりません。本当にストレスが? と思われるかもしれませんが、稀に治療を休んでいる間に自然妊娠をされる方も、ごく少人数ですがいるところから、治療がストレスになっているということも考えられるでしょう。
 ただ、治療によるストレスと一口にいっても、人それぞれに違いがあるわけです。

 

看護師のフォローと、カウンセラーの支え

 日頃の診療では、患者さんの気持ちに寄り添えるように
看護師やカウンセラーが、フォローやケアにあたっています。患者さん自身がカウンセリングを希望することもありますが、「カウンセリングまでは…」ということについては、看護師が細やかに対応しています。
 また、お仕事と治療を両立されている方の中には、治療スケジュールと仕事のスケジュールが合わないこともでてきます。あまり多くはありませんが、治療スケジュールを変更できないか? というご相談を受けることがあります。その場合、なるべく患者さんのスケジュールに合わせるように配慮をしますが、そこに生じるメリット、デメリットもお話します。
 メリットは、ご自分のスケジュールに合わせられることになりますが、そこには治療を進める上でのデメリットも起こります。その上で「どうしますか?」と最終判断を患者さんにお任せしています。
 そこに生じる小さなことも、看護師が患者さんに寄り添ってくれています。 

 

 ご夫婦が納得できる治療を提供するために

 私は、患者さんの状態に合わせて、いくつかの治療方法を用意して提示していますが、その中でも、「オススメですよ」という方法があります。
 これまでも、患者さんに「どうしましょうか」と投げかけたり、ご相談のお話をしてきましたが、治療を進めるにあたって、患者さん自身が選択することは、とても大切なことだと考えています。
 培養室とも連携よく治療に当たることができていますし、私自身も長く不妊治療に携わり、受精や胚培養の経験もあります。妊娠へ導くために、何が最善かを考えるには、広くいろいろな治療方法を提供できる環境であることも大切な要素なのです。

 

荻窪病院 虹クリニック 北村誠司院長のお話
(2015年9月20日発行『i-wish ママになりたい 妊娠しやすいからだづくり2015』の記事です)