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取材記事

卵子について、そして妊娠と年齢の関係について、知ること

公開日: 2017-06-28

年齢による卵子の質の低下を止めるのは難しい。
なかなか妊娠しないでいるのなら、少しでも早く治療を開始するのが妊娠への一番の近道です。

 質が低下してしまった卵子を良い状態に戻すことは難しいけれど、少しでも低下を遅らせるために食事や運動に目を向け、栄養バランスのよい食事をしたり、エクササイズやマッサージなどで血流、代謝を促進することで「健康なカラダ」を維持する。これこそが一番のアンチエイジングと言えるでしょう。そして最大のポイントは、早急に治療を始めること! と語るのは、徳岡医師。
 子どもがほしいと努力しているのに、なかなか妊娠しないというのであれば、一歩を踏み出しましょう、と呼びかけます。 

 

卵子について患者さんに伝えたいことは?

 年齢とともに妊娠率が下がるのは卵子が関係しているということですね。そのひとつとして卵の数の減少が挙げられます。卵の数は月に1千個、年間に1万から1万2千個も少なくなってしまう。最近よく言われるAMHの数値から推測されるように、その人の卵巣にどれくらいの卵が残っているのかという点がひとつのポイントですね。
 もうひとつは卵の質の低下です。30代後半になると顕著に表れてきますが、ほとんどの方は年齢とともに卵の質が低下するなんて思ってもいません。ですが、どんな臓器でも老化するもので、その中でも他のもので代償できないのが卵ではないかと感じます。たとえば肝臓の細胞がひとつ具合悪くなっても他の数億もの細胞で代償される。ところが卵はひと月に1個しか排卵されないもので、その1個が排卵するために他の999個は無くなっていく。ですから、排卵する1個の質が良いか否かはとても重要になるわけです。ただし、35歳以降になると5割から7割ぐらいは染色体異常を持っているというデータもあります。仮に妊娠できたとしても妊娠が継続して出産にいたることは、かなり低くなります。

 

現在、体外受精では胚盤胞移植をすることが多いですが、胚盤胞まで分割した場合は染色体異常はないと考えて大丈夫でしょうか?

 いいえ、そうとは言い切れません。今は胚盤胞移植を希望される方が大半で、胚盤胞まで成長した卵なら染色体異常はないだろうと思われるかもしれませんが、年齢が高くなると正常なものは4個に1個程度です。4回移植して1回が妊娠に結びつくような状態です。
 ですが、多くの方は排卵していれば妊娠できると思われていて、現実とのギャップが生まれています。
 胚盤胞移植をして妊娠しないと、子宮内膜に問題があるのでは?と質問してくる方もいるのですが、現在の不妊治療ではホルモン補充をして内膜の状態をきちんと整えて移植するのが基本なので、内膜の問題ではなく胚の問題であることがほとんどです。
 要は卵の質の低下が最も重要な原因と言えます。

 

年齢による卵子の質の低下を止めるのは難しい。
なかなか妊娠しないでいるのなら、少しでも早く治療を開始するのが妊娠への一番の近道です。

 

 

 

 

卵の数についてはAMH値で推測できると言われていますが、質の低下はどういうところに出てくるのですか?

 胚が減数分裂するときに、きちんと分裂できないことが増えてきます。分裂の際に引っ張られた染色体にちょっとした不具合が出て、正常に分裂しないとトリソミーなどの異常が起こってしまうわけです。そして、この異常は年齢が上がるにつれて増えることが研究からわかっています。これが卵の質の低下ということですね。
 一時期、卵に細胞質を入れるといった試みもされましたが、普及することはなく、アメリカなどでは卵子提供という方向にシフトしていきました。世界的にみても卵子提供を認める国は増えています。一度、質の低下してしまった卵を良い状態に戻すことは難しいので、異常の少ない若い女性の卵を使うということですね。
 ただ、卵子提供は日本では文化的にも馴染まず、学会でも認められていません。

 

質の低下してしまった卵を良い状態に戻すのは難しいとなると、どのように対処したらいいのでしょう?

 現状のもとで何ができるかというと、早く治療をする。これに尽きます。卵子の状態が良くてステップアップ治療でも大丈夫な方はいいですが、35歳以上の方はやはり早く治療をスタートする。そして少しでも良い状態の卵を確保することが妊娠への一番の近道です。
 何が何でも体外受精を勧めるわけではありませんが、ART治療がこれだけ普及しても妊娠率は決して高くない。不妊の原因はいろいろありますが、年齢が上がるにつれて卵子の質の低下が大きく影響しているのは間違いありません。となると、やはり早く治療をすることが大切ですし、その重要性を知ってほしいと思います。

 

こうした卵についての話を患者さんにはどのようにお伝えしているのですか?

 月1回、土曜日に開催している勉強会で詳しく話をしています。どうして年齢とともに数が減るのか、どこで染色体異常が起きるのかといったことを、きちんとお伝えするのには1時間以上はかかりますからね。診療時にはなかなか十分に説明する時間を取ることはできません。ですから「勉強会に参加してください」とお勧めしています。

 

年齢による卵子の質の低下を止めるのは難しい。
なかなか妊娠しないでいるのなら、少しでも早く治療を開始するのが妊娠への一番の近道です。

 

 

 

 

卵の質を維持するために、患者さん自身でできることはないのでしょうか?

 適度な運動はいいと思います。からだを動かすことによってミトコンドリアが活性されると言われていますからね。
 薬を使う、不妊治療をするといったこと以外に、当院では月に2回、水曜日に「子宝エクササイズ」という運動を実施しています。代謝を促進し、血流を増やして骨盤に効くようなエクササイズストレッチです。インナーマッスルを動かして、卵子の質が落ちるのを少しでも食い止められたら。わずかな違いだとしても、やらないよりはやったほうがいいと思いますからね。バレエの先生を講師に迎えて予約制(定員5名)でやっています。
 いざ運動しましょうと言っても、自分ではどうしたらいいかわからないという方も多いのではないでしょうか。ですから、レッスンで、こんなふうに動いたらいいんだなと覚えてもらって、ご自宅でも活かしていただけたらと思います。あとは毎週月曜日にリフレクソロジーの先生が来院して、アロマオイルを使用して足裏の反射区を刺激するマッサージを実施しています。これもマッサージによって骨盤の血流を促進するのが目的です。

 

食事について注意することはありますか?

 当院では食事指導は行なっていませんが、当然、食事は大事な要素だと思います。これを食べたら卵子の質が良くなるというものはありませんが、塩分を摂り過ぎない、過度なダイエットはしないといった健康に配慮した食生活が基本でしょう。難しく考えたり、神経質になりすぎずに、生活習慣病を予防するような食事を心がければ悪く作用することはないと思います。

 

加齢によって卵の質が悪くなること、それに伴い妊娠率が低下することについて、どのように伝えていったらいいのでしょうか?

 子どもを持つこと、子どもを産む年齢について、元来は親が子どもに伝えてきたのではないでしょうか。昔は結婚自体が早かったこともありますが、結婚したら「○歳くらいまでには子どもを産みなさいよ」というように親が伝えていたんじゃないかと思います。でも、今は教えていないでしょうね。「大学に行って勉強しなさい」「就職をしてキャリアを積みなさい」とは言われたけれど、ライフプランのなかに子どもを産み育てることが入っていないように感じることがあります。
 不妊がこれだけ増えている一番の要因は、晩婚化によって子どもを持とうと意識する年齢が上がっているからでしょう。もちろん、結婚したくないという方もいて、そういう方を無理に結婚させることはありません。結婚して子どもがほしいと思っている方に希望通りに子どもを持ってもらえるように、妊娠や年齢について伝えていくことが必要でしょう。
 本来は親が子どもに伝え、本人が考えていくべきことでしょうが、その他に中学、高校、大学などの教育の場で啓蒙していくことも大事だと思います。避妊について伝えるだけではなく、不妊についても伝える。年齢が高くなるにつれて妊娠が難しくなるということも伝えていくべきでしょう。

とくおかレディースクリニック 徳岡晋院長のお話
(2015年3月5日発行 『i-wish ママになりたい 女性のカラダと卵子の話』の記事です )